バーベキュー



バーベキュー。略してBBQ。表記すればこそ略語であるものの、音声として発声したのならば全然略語にならない。そんなどうでもいいことは置いておいて、このバーベキューという言葉、なんという甘美な響きであろうか。思わずウットリとしてしまいそうだ。

夏の暑い日差しが照りつける中、庭で、浜辺で、山荘で、キャンプ場で、あらゆる場所で大勢の人が集まり談笑しながら肉を頬張る。秋の行楽シーズンの最中、これから向かえるであろう寒い季節の前に悔いの残らないよう、たくさんの仲間と共にグラスを持ちながら盛り上がる。そこには大人から子供まで、性別も関係なく胸いっぱいに外の空気を吸いながら人間の三大欲求である食欲を美食によって満足させる定例のイベント。在り来たりながらも、振り返ってみればいい思い出として記憶に残るような、そんなアウトドア行事。元来引き篭もりがちな僕ですら毎年楽しみにしてやまないのである、ここを見ている諸兄もまず例外なく好意的な印象を持っていることだろう。

ある者はひたすら食すことに特化し、ある者は鍋奉行ならぬ肉奉行としてひたすら肉を焼くことのみを命ぜられ、ある者は「これ焼けてるよ」などとさりげない優しさをもって婦女子の気を引くことに懸命になる。何もこんなとこでまでナンパなことせんでもなぁ…と思ってしまう僕は当然のごとく食べること専門の人間な訳であって、あぁ、こういうところに人の性格っていうか、モテと非モテの違いって出てくるんだなぁとしみじみ感じてしまうほどだ。何れにせよ、若さ溢れる光景ではある。

そりゃ、僕たちだってまだ20代。10代には遠く及ばぬものの、まだまだ若い盛りなのである。青春はまだまだ終わっていないのだ。「誰にでもある青春〜〜」と、イエローモンキーの「SO YOUNG」の一節を口ずさみたくもなるのである。そもそもこの歌が頭の中でリフレインしている時点でどんだけ僕が空しい人間であるかが一目瞭然なのであるが、それでもまだまだナウなヤングなのだ。負けておられんのですよ!!話は逸れるが、僕の大学時代の親友Nは、吉井和哉が最後に叫ぶ「ソーヤーング!!」というフレーズを耳にすると絶対に「チューヤーン!!」と叫ぶ癖があった。今時の若い者に電波少年ネタが通じるかは分からないが、「いくら似ている言葉で誤魔化そうとしても、ヤンしかかぶってないじゃん。空耳アワーにもなりませんわ!!それにチューヤンはねーだろ!!」と突っ込みたくなる衝動に駆られるのはあなたにも分かっていただけるだろう。そう思いたい。

話を元に戻そう。そんな漲るパワーで毎年のバーベキューパーティーを駆け抜けてきた僕だが、一際思い出深いバーベキューがあった。当時を思い出してその事に浸りつつ、今回のネタを進めさせてもらおう。


あれは僕が大学2年の10月に入ったばかりの出来事だった。当時所属していたサークルが毎年恒例秋のBBQ大会を仙台市牛越河川敷で執り行うことになり、まだサークル内の実権を握れないペーペーの男共はその前日の夜から場所取りを行うことになった。ちょうど木々が色づき始めるその季節は多くの家族連れで毎年賑わい、当日に行ったのでは大学サークル程の大所帯が陣取れる場所など当然なくなってしまう。それを未然に防ぐため、体を張るのが1・2年男子部員の伝統的な役目であった。まったく損な役回りである。当然僕も駆り出され、しかも数少ない自家用車の持ち主であったがために買出しおよび保管すらも命ぜられるというウルトラ貧乏くじを引かされねばならなかったのだ。

大学の講義時間が終わり、中山ジャスコ、通称「中ジャス」に、車持ちの後輩や実家通いで車を調達できる人(男子限定)が集まり、ありえない量の酒・ジュース・食材・食器類を買い込み、場所取り会場へと向かった。その時刻はちょうど午後9時頃。

現地に到着し、食材と飲み物を氷の入ったクーラーボックスにぶち込み、それを腰掛にして川原に座り込みを開始する。10月といえば衣替えの季節。日中は汗ばむ陽気であっても、日が暮れれば初秋の風が容赦なく体温を奪っていく。皆それを肌で感じ、季節外れのダウンジャケットや分厚いコートを羽織り、防寒にはちょっと心もとない軍手を着用したりホッカイロを懐に忍ばせたりして寒さを凌ぎつつ、まずは軽く一杯引っ掛けるべ〜ということで酒盛りを開始。暇つぶしのためのマージャンセットを岩のせいで不安定な足場のところに設置してジャラジャラと牌をかき混ぜながら秋の夜長の攻略に着手した


友人1「それにしても冷えるなぁ。まだ10月頭だぜ?もう道端で泥酔して寝たら、風邪引くを通り越して凍死すんじゃねーの?」

友人2「かもなぁ。とりあえず今はまだそうでもないけど、日付変わったらもっと寒くなるべ?見張りは交代制にして、仮眠取るのは車の中決定だな。外だと多分、寒さで死ねるからさ。」

後輩1「そうっすよねぇ。ぶっちゃけマージャンどころじゃない気がしますもん。あ、それチーで。」

FAT-A「鳴き早いなお前。とりあえず俺はアルコールは無理だからさ、冷えてきたらあそこのローソンでおでんでも買ってくるべ。この溜まり場ですら買出し要員ってのが気に食わねーけどな。」

友人2「あっははは、そりゃ仕方ねぇわ。運転出来る奴はオメーだけだもん。俺ら全員酒入ってるし。この半荘終わったら頼むっつーことでリーチ!」

後輩1「うおっ、ついに来ましたねぇ。とりあえず現物っと。それにしても、なんでこういうのを任されるのって男だけなんすかね?今頃女の子たちは彼氏としっぽりやってるか、暖かい部屋でTV見たりしてるんすよ。マジ俺ら切ねーっすよ。」

FAT-A「それは言ったら負けだ。フェミニストどもに『か弱い女性にそんなことさせるなんてサイテー!!』とか突っ込まれたいのか?男は文句を言わず黙って体張ってりゃいいのよ。」

後輩1「そりゃそうっすけど……」

次に切る牌の選定をしながら、納得のいかなそうな顔を浮かべる後輩1。そりゃそうだ。僕だって常々その事には疑問を覚えていた。男女平等を謳いながらも、損な役回りやいざという時の責任は何故か男衆に回されていたのだ。彼の不満もよく分かる。しかし、学生の男女比率が4:6のこの大学でそんな発言をしたら袋叩き確定である。平成のプチ男塾男根寮のようなこの時以外には出来ない会話だ。

友人1「確かに、おいしい所は女子が掻っ攫うって感じも受けるよな。現に俺らはこうして寒空の下で公開マージャンしているわけだし。あ〜〜あ、家帰ってヌクヌクしながら小室友里でオ○ニーしてぇわ〜〜

全員「うわ、来たよ、こいつの恒例爆弾発言!!」

友人1「いや、お前らだってそう思うだろ?そうだ!!俺の変わりに後輩2、後輩3、お前ら入れよ。FAT−Aは俺と一緒にエロビ借り出しに行こうぜ。自家発電しねーとやってられねーわ。」

FAT-A「マジ??俺も??別に車出すのはかまわんけど、あそこの店行くのか??つーか、その流れで行ったら俺のアパートで行為開始ってことになるじゃん!?勘弁してくれよ〜〜orz」


友人1「いいだろそれくらい。かつてお前のアパートで3人の男共が入れ替わり立ち代りで自慰した挙句、処理し終わったティッシュを並べて、団子三兄弟ならぬ『オナティッシュ3兄弟』と自慢しあったことは伝説になってんだからさ。」

後輩達「FAT−Aさんそんなことしてたんですか…??なんという汚れ男……、ある意味伝説だわ〜〜。」

FAT-A「ちょっ、おま、こんなとこでばらすなや!!っつーか、そこにお前もいただろが!!」

友人2「いいじゃ〜ん、行ってくればぁ??なんかある意味竿兄弟みたいでおもれ〜わ。どんな顔して帰ってくるか楽しみだよ。」

全員「行ってこ〜い、そしてイってこ〜い!!」


なんという奴等だろうか。人を貶めることで、男だらけのむさくてお寒い夜の酒の肴にしようという魂胆が見え見えである。結局、やるせない気持ちになりながらも、アダルトコーナーの充実している行きつけのレンタルビデオショップに車を走らせる僕。その前にあるセブンイレブンで車を止め、『よし、ここからは歩いて向かうでぇ〜〜』といった矢先、友人1が、

「やっぱエロ本で我慢しとくわ。あんまり長くあの場を離れるのも悪いし、いちいち見に帰らなきゃいけないビデオと違ってエロ本の方が携帯できるしいつでも見れるしな。」

などと言いやがった。。「だったら河川敷近くのローソンでおでんとまとめて買ったらよかったじゃね〜か!!」という僕のツッコミを無視し、「じゃ、向かおうぜ。」とのたまう友人1に軽く殺意を覚えつつ、僕は再び河川敷へと車を走らせた。まったくもって、ガソリンの無駄遣いである。

そして河川敷に着き、再び底冷えのしそうな屋外のクーラーボックスに腰をかけた僕ら2人。しばらくはマージャンを傍観したりゲームボーイアドバンスなどをして遊んでいたのだが、突然友人1がそわそわと落ち着きがない不審な行動をし始めた。僕は、「あ〜、アレしたくてたまんないんだろうな…」と思っていたら、案の定、さっき買ったコンビニの袋を手にした友人1が急に立ち上がり、

「ちょっと俺、ションベンしに行ってくるわ!!」

と言って草むらの方へと駆け出していった。ちょうど彼が向かっていったのは牛越橋の近くで街灯が完備され、照明器具がなくても本を読んだりすることが出来る程度には明るい場所である。用を足すには長すぎる20分を経過した頃、ようやく友人1は艶を帯びた顔で待機場所に戻ってくるのだった。

………

………

皆あえて何も突っ込まない。知らないフリをしてマージャンに興じていた。何を言うべきか迷っているような状態であった。

FAT-A「すっきりした?どこに出したの??」


敢えて先陣を切る僕。捉え方によってはおしっこともザ○メンとも取れる、我ながら微妙なニュアンスでの質問方法だったと思う。

友人1「……。みんなごめん…。ティッシュ持ってくの忘れてこれに出しちゃった……。」

そう言うと彼は、いつの間に持っていったのか分からないが、サイコロステーキや焼きそばを調理するための鉄板をぬうっと背後から差し出した。鉄板の中央の辺りには何か液状のものが付着している。そう、彼は土壇場でティッシュを持っていくのを忘れたことに気づき、持っていた鉄板に発射してあまつさえ一物をぬぐう処理までしてしまったのである。いや、彼の車の中にはティッシュは完備されていた。それなのに必要のない鉄板を持って行ってそれを利用したということは、この男、
確信犯かっ!?

後輩3「ちょ、ちょっと友人1さん、何やってんですか!?それ、明日のバーベキューに使う鉄板っすよ?なんてことしでかしたんっすかっ!!」

友人2「そうだぞテメー!!お前のせいで気持ち悪くて明日焼きそば食えねぇじゃねぇか、このボケっ!!」

後輩1「兎に角っ!!そこの川でさっさとその汚い物洗ってきてくださいよ!!いつまでも見せないでください。なんか匂うし。」

FAT-A「焼きそばがぁ、サイコロステーキがぁ!!俺の、メインディッシュがぁあああああああああっ!!」

皆の乱心ぶりに、当の本人は完全に狼狽していた。予想外とばかりに驚いている様を見ていると、ネタとしてやったことがありありと伝わってくる。まったく、こいつはやっていいことと悪いことの区別がつかんのか?完全にトラウマになってしまったではないか!!

友人1「う、うん、と、とりあえず洗ってくるよ。」

彼は急いで川原へと向かい、自身の完全に滑ったネタの後処理へと向かうのであった。



翌日。



女子1「このお肉チョーおいし〜〜い。すごい高かったんじゃないの??」

女子2「こっちの焼きそばもすごい美味しいよぉ!!高木(仮)さん、普通に味付け上手すぎですよぉ!!」

高木(仮)「おう、みんなじゃんじゃん食えよ!!まだまだ食材はあるし、足りなくなったらこいつらに買出しに行かせるからな!!おい、FAT−A、友人1、友人2!!お前ら場所取り組は買出しだ!!牛カルビと豚ロース、手羽先とあとウーロン茶。焼酎とミネラルウォーターと氷もだ。急げよ!!」

FAT-A「……ういっす…」


昨日の一件以来食欲を無くした僕らは鉄板を使わずに網焼きで焼いた肉を少し食し、げんなりとした表情で買出しへと向かった。何も知らない先輩や女子はきゃっきゃとはしゃぎながら、そよ風なびく川原で楽しい昼の一時を過ごしている。「あんなことが無ければ僕達ももう少し楽しめたのに…」と悔しい思いをしつつ、肉を食む女子が間接キスならぬ擬似口内射精を体験している様子に若干の興奮を覚えながら、僕らは車を更に郊外へと走らせるのであった。





いかがだっただろうか?最後に言ってしまうと、当時は最悪な思い出というか人生の黒歴史に入る出来事だと思っていたが、今ではそれすらも若かりし学生時代の頃のよき思い出である。これからもネタになるような楽しいBBQが出来ることを願って……


〜FIN〜





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